2023年3月12日に開催された「第95回アカデミー賞授賞式」の受賞、またはノミネートした作品の感想記事のまとめです。
様々な受賞・ノミネート作品の中から選り好みで紹介させていただきます。
10部門11ノミネートを誇った『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が勢い衰えず、最多7部門を制する形となりました。 なお、主要8部門のうち6部門を獲得する偉業で、オスカーの歴史を塗り替えています。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
作品賞、監督賞(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)、主演女優賞(ミシェル・ヨー)、助演男優賞(キー・ホイ・クァン)、助演女優賞(ジェイミリー・リー・カーティス)、脚本賞(ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート)、編集賞を受賞するなど、最多7部門を制しています。 なお、主要8部門のうち6部門を獲得する偉業で、オスカーの歴史を塗り替えています。
カンフーとマルチバースの要素を掛け合わせ、ごく普通の中年女性がマルチバースを行き来し、世界を救う異色なアクションエンタメ大作。
ブルース・リーで風靡したカンフーに「マトリックス」シリーズ的なSF要素、さらに多様性を尊重する昨今の風潮を合わせ、「インセプション」(2010)ばりの情報量の多さと展開の目まぐるしさを兼ね備えたような作品であるように感じます。
『ザ・ホエール』
劇作家サミュエル・D・ハンターが2012年に発表した同名舞台劇を映画化した作品です。
主演男優賞(ブレンダン・フレイザー)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞
まともに歩けないために部屋から出ないチャーリーと、その部屋に入れ替わり立ち替わりで来訪する人達との会話劇。
舞台劇の映画化作品だけに脚本のクオリティは申し分ないことに加え、登場人物の演技も素晴らしく、それだけで鑑賞した甲斐があることは言うまでもないように感じます。
ファットスーツと特殊メイクで体重600ポンド(約270kg)のチャーリーを巧妙に体現したブレンダン・フレイザーが、ほぼ全編にわたってソファに座りながらも、その表情と表現、重苦しい身体の動きで見事にオスカー受賞を果たしたのは納得としか言いようがありません。
『西部戦線異状なし』
1929年のエーリヒ・マリア・レマルク原作の世界的ベストセラー長編戦争小説の2度目の実写映像化作品です。
国際長編映画賞(ドイツ)を含む計4部門(作曲賞、撮影賞、美術賞)を受賞
第一次大戦に志願したドイツの新兵たちが、過酷な西部戦線で理想と現実の違いを突きつけられる作品。
前線と軍上層部の政治的駆け引きが同時進行で描かれ、人間性や感情論など一切受け付けさせない”戦争”そのものを冷たくも美しく描いています。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
ジェームズ・キャメロン監督が革新的な3D映像を生み出し、全世界興行収入歴代1位の大ヒット作となった「アバター」(2009)の約13年ぶりとなる続編で、全5作からなるアバターシリーズの2作目にあたる作品です。
作品賞ほか計4部門でノミネートされ、視覚効果賞受賞
前作の”映像革命”から早13年。
「パフォーマンス・キャプチャー」を利用した革新的な映像美は、より進化を遂げる形に!
水上や水中で繰り広げられるアクションは、美しく魅力的に描かれる素晴らしい相互作用をもたらしていて、目を見張るような荘厳な海の多彩な生物と泳ぎ、会話するといった演出や滑らかな質感と動きは、CGを忘れ流どころか”映像がリアルを超えた”と言っても過言ではないように感じられます。
『トップガン マーヴェリック』
アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校”トップガン”に所属するエースパイロット候補生の栄光と挫折の日々を、迫力のスカイアクションと瑞々しい青春と恋の群像を合わせて描いた『トップガン』(1986年)の続編。
音響賞受賞
CGに頼らず、実際に最大20台以上のカメラを使用して撮影しているようで、Gのかかり具合がこちらまでしっかり伝わってくる感じが堪らないw
さらにそんな撮影はトム・クルーズをはじめとするキャストが3ヶ月以上に及ぶフライトトレーニングを実施しているようで、本気度が違いますよね〜
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
カルロ・コッローディの『ピノッキオの冒険』を原作とし、グリス・グリムリーが手掛けたデザインを基に製作されたストップモーションアニメーション作品です。
長編アニメ映画賞受賞
世界中で愛される誰もが知る名作のお馴染みのストーリーを、ギレルモ・デル・トロと「ファンタスティックMr.Fox」でアニメーション監督などを務めたストップモーションアニメの名匠マーク・グスタフソンが共同で監督を務め描いた作品。
ストップモーションで描かれる質感漂う木彫りのピノッキオが造形豊かで可愛らしく動き回ります。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の30作目でフェーズ4の最終作という位置づけの作品でもあります。
MCUの一作として世界的大ヒットを記録し、コミックヒーロー映画として史上初めてアカデミー作品賞を含む7部門にノミネート、3部門で受賞を果たした「ブラックパンサー」の続編。
主人公ティ・チャラ/ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月に死去したが、リキャストをせずに続編を製作しました。
衣装賞受賞
タロカンの神秘的な映像描写は見事でしたし、衣装や装飾品にもこだわって作っているなぁ〜と感じましたし、歴史や生態、立ち位置などもしっかり描かれていて割と受け入れやすかった印象を受けました。
音楽もシーンに合っていて好みでしたし、全体的に暗めの演出が多いのもバックグラウンドあってこそだと感じさせられます。
何よりもブラックパンサー、そして王位の継承を通してシュリが自分なりの答えを導くためにも、このくらいの尺で丁寧に描かなければという作り手の愛を感じます。
『イニシェリン島の精霊』
作品賞、監督賞、主演男優賞をはじめ8部門9ノミネート
時代設定を1923年とし、架空の孤島であるイニシェリン島を舞台にした会話劇。
人々はパブで呑むことを楽しみにする程度の取り立てて浮き沈みのない毎日を過ごしていたが、ある日2人の男たちの仲違いを発端として島全体にまで怪訝な空気が広がっていき、その理由がなんのか、方向性がほとんど見えないまま物語は幕切れへと突き進んでいきます。
『エルヴィス』
「キング・オブ・ロックンロール」と称されるエルヴィス・プレスリーの生涯を描いた伝記映画です。
作品賞、主演男優賞をはじめ8部門ノミネート
黒人居住区の近くに住む白人少年が黒人の教会音楽に魅了され、音楽に身体を突き動かされ、魂を揺さぶられる体験をし、カントリー&ウエスタンとR&Bを融合させた音楽で世界を魅了していく。
映画にもよく題材にされるように、深刻な人種問題を抱えていた当時のアメリカでは異例中の異例で、ロックは人気を博すとともに保守層の取り締まりを受ける。
そんな時代の先駆者をオースティン・バトラーが圧倒的な歌唱力とセンセーショナルなダンスで好演し、スタートから思い切り作品に引き込まれます。
『フェイブルマンズ』
「ジョーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」など、世界中で愛される映画の数々を世に送り出してきた巨匠スティーブン・スピルバーグが、映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画にした自伝的作品です。
第47回トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を受賞しています。
作品賞、監督賞をはじめ7部門にノミネート
この半世紀の映画史に大きな影響を与えるスピルバーグの単純なサクセスストーリーでは終わらず、天才である夫の理解者にはなり得ない孤独感を感じる母や、芸術を目指す人間にとって呪いのような言葉を残す大叔父、カメラが映し出す虚像に自己崩壊を引き起こすガキ大将と、サミーを含め取り巻く全てを表すタイトル通り”フェイブルマンズ”のストーリーは思ったより色濃く、心の弱い部分を抉るような描写が要所で見受けられます。 ガキ大将は家族ではないですがw
スピルバーグと言えばどんな場面でも最大限面白くしようとするイメージを大いに持っていただけに、やや肩透かしというか大人しい感じで話は進みますが、ラストシーンのカメラワークのくだりは最高でしたw スピルバーグ作品がなんで好きなのか思い出させてくれました。
『ブロンド』
ジョイス・キャロル・オーツによる小説を原作とした実写映画化作品です。
Netflix史上初のNC-17(18歳未満鑑賞禁止)に指定されたことでも話題になりました。
歌やモンロー・ウォーク、シーツやタオルを纏うだけの抜粋的なセクシーの偶像の印象と、幼いナタリー・ポートマンが『レオン』(1994)で真似をするキュートなイメージしかありませんが、まさに実物を目の当たりにしているような錯覚に陥ります。
それだけアナ・デ・アルマスの演技力が素晴らしく作品に良く引き込まれます。
『その道の向こうに』
Apple TV+で配信のみとなった作品。
アフガニスタンで負傷した米兵とトラウマを抱える自動車整備工の心の交わりを描いた物語。
他人だからこそ本音で話せるという、普遍的な感情に沿った描写に感情移入せずにはいられません。
『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』
ライアン・ジョンソンが監督・脚本を務める『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)の続編です。
“館”の次なる舞台は”孤島”。 次は何が来るのかワクワクしてしまいますね〜 機関車なのかアルファベット順なのかはたまた…笑
そして何よりも現代的すぎる演出も光ります。 マスク、リモート、ホームステイ…w
そしてイーロン・マスクかのような大富豪によるミステリーな招待状と孤島の大豪邸は、いかにもお金をかけています的な感じで前作にはないセットの作り込みを感じられる作品です。
『ジェイコブと海の怪物』
『ボルト』『ベイマックス』などの共同監督を担ったクリス・ウィリアムズが監督を務め、海の巨大生物を狩るハンターを描いたアニメーション作品です。
長編アニメーション賞ノミネート
世界の広さや知らないものの多さについて学んでいきます。
既成概念というものの恐ろしさ、自分の目で見たものを信じる必要性、真実を見極めることの難しさをファンタジーを通して描いた作品となっています。
『私ときどきレッサーパンダ』
ピクサーの長編映画としては、『あの夏のルカ』(2021)に次ぎ、『トイ・ストーリー』(1995)から数えて25作目となる作品です。
長編アニメーション賞ノミネート
思春期真っ盛りの女の子の気持ちをモフモフのビュジュアルに落とし込んだ作品。
ディズニーピクサーらしからぬ導入部分から、親子関係や友情をテーマに描かれたストーリーはテンポ良く、目がキラキラしたりするコミカルさを加えたり真新しさも光りました。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
DCコミックスの大人気キャラクター「バットマン」を主人公としたスーパーヒーロー映画です。
既に2つの続編が計画されており、他にもスピンオフの映画(スケアクロウ、クレイフェイス、プロフェッサー・ピッグ)、HBO Max配信スピンオフのテレビドラマシリーズ(The Penguin、アーカムアサイラム、GCPD)、スピンオフのコミック作品(リドラー:イヤー・ワン)が予定されています。
視聴効果賞ノミネート
今までに様々な監督・キャストで描かれ演じられてきたバットマン。
本作は個人的にコミックでのバットマンを彷彿とさせる探偵要素を大きく取り入れるとともに内面にもより迫る作品の印象を受けます。
バットマンになろうとするブルース・ウェインが、社会に蔓延る嘘を暴く思想派である知能犯リドラーによって人間としての本性がむき出しにされていく様が見事に描かれています。
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以上、「第95回アカデミー賞授賞式」で受賞、またはノミネートした数々の作品の中から、個人的に選抜した印象深いタイトルでした。
バックナンバーは以下から。
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