ビターズ・エンドから2024年3月29日に劇場公開された「オッペンハイマー」の感想記事です。
カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるピューリッツァー賞受賞作である伝記『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作とし、第二次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を実話に基づき描いた作品です。
2023年7月の全米公開を皮切りに、世界興収9億5000万ドルを超える世界的大ヒットを記録し、実在の人物を描いた伝記映画としては歴代1位となっています。
第81回ゴールデングローブ賞では、クリストファー・ノーラン初の監督賞を受賞し、作品賞(ドラマ部門)、主演男優賞(ドラマ部門/キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)と最多5部門を受賞したほか、第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞をはじめ最多13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で受賞を果たしました。
オススメ度
あらすじ&予告編
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。
これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。
冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった…
作品情報
原題:Oppenheimer
製作国:アメリカ(2023年)
配給:ビターズ・エンド
監督:クリストファー・ノーラン
本編:180分
出演:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.、フローレンス・ピューほか
レビュー
「インセプション」(2010)「インターステラー」(2014)「TENET テネット」(2020)という挑戦的な名作を生み出してきた奇才”クリストファー・ノーラン”による脚本・監督・共同製作で、製作費約1億ドルを投じた3時間の超大作。
興行収入は公開から16日後の8月6日の発表で推定5億ドルを突破し、9月第3週末時点には9億1200万ドルを記録し、伝記映画としては『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)や『アメリカン・スナイパー』(2014)を抜いて歴代1位となる快挙を達成しながらも、日本ではその題材がゆえに公開予定すら立たなかった本作。 公開に漕ぎつけたビターズ・エンドには感謝しかないですね〜
個人的には良くも悪くも”クリストファー・ノーランらしさ”は薄いかな、と率直に感じる一方で、「ダンケルク」(2017)のような戦争史実の映像化作品もあるし、一般的な作品であればもう少し丁寧に説明シーンを混じえそうな展開や内容でも、いろんなディテールがバッサリ切られているところや観客に委ねる形、そして繰り返し鑑賞することで理解度が高まる奥深い作品を追求するノーラン監督の挑戦的な試みは継続されているように感じます。
本作は原爆の成果を肯定的に描いているわけではなくて、原子爆弾の開発に成功した理論物理学者”オッペンハイマー”がアメリカの国家戦略に巻き込まれていくプロセスとその苦悩を主観的に描こうと試みた作品で、それゆえに映像化も難しいのは間違いなく、モノクロなどの工夫を凝らしながら時間軸を行き来し、彼を取り巻くカオスをその視点で体験できるように工夫している秀逸な作品に仕上がっています。
演じるキリアン・マーフィーの無表情っぽさと対称的に青く見開かれた瞳、そして葛藤や苦悩などを感じさせられるほどの表現力あってこその作品であるとともに、モノクロで強調されるロバート・ダウニー・Jr.も含め、脇を固めるキャストも抜群に映えているのは間違いないところでしょう。
原爆被害を直接描かなかったことにモヤッとした感じは否めないが、オッペンハイマーが原爆の衝撃を感覚的に理解してしまうシーンを映像はもちろん音響を最大限駆使した表現力は凄まじく、説明のいらない描写というもを初めて味わいました。
IMAXの画角を効果的に使った映像も見所のひとつとしているノーラン作品にあって、「ダンケルク」では縦方向の動きを見せるカットが活きていましたが、本作ではキリアン・マーフィーの顔を画面いっぱいに映し、瞳や表情筋の微細な動きに心理状態まで浮き上がらされるようなカットだったり、物理学的真理を追求する思索のイメージ、原子爆弾が世界に連鎖的な破壊をもたらす悪夢のような空想をこれ以上ない映像クオリティで再現しています。
あくまで原爆を作った男の映画でも、被爆国である日本の一個人が観ているがゆえに、加害者の苦悩よりも被害者の苦痛に重きを置いてしまい、純粋に作品にのめり込めない感じはあります。
それでも原爆開発を巡る議論がどのように行われ、プロセスを経て開発され、開発者が苦悩し葛藤し、戦後どういうことになったかを知る機会を無碍に手放すのは大きな損失であり、ゼロベースで原爆を考えてみる機会の一つとして鑑賞するのが正解であるように感じます。
長くなりましたが、観る人によってあらゆる命題をぶつけられる作品です。
評価
脚本
配役
演出
音楽
映像
IMDb 8.3 / 10
ROTTEN TOMATOS Tomatometer 93% Audience 91%
metacritic METASCORE 90 USER SCORE 8.5
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