ザ・ホエール

キノフィルムズから2023年4月7日に劇場公開された「ザ・ホエール」の感想記事です。

劇作家サミュエル・D・ハンターが2012年に発表した同名舞台劇を映画化した作品です。

第95回アカデミー賞で主演男優賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞とあわせて2部門を受賞した作品です。

オススメ度4.6

あらすじ&予告編

40代のチャーリーはボーイフレンドのアランを亡くして以来、過食と引きこもり生活を続けたせいで健康を損なってしまう。

アランの妹で看護師のリズに助けてもらいながら、オンライン授業の講師として生計を立てているが、心不全の症状が悪化しても病院へ行くことを拒否し続けていた。

自身の死期が近いことを悟った彼は、8年前にアランと暮らすために家庭を捨ててから疎遠になっていた娘エリーに会いに行くが、彼女は学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた…

作品情報

原題:The Whale

製作国:アメリカ(2022年)

配給:キノフィルムズ

監督:ダーレン・アロノフスキー

本編:117分

出演:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンクほか

レビュー

まともに歩けないために部屋から出ないチャーリーと、その部屋に入れ替わり立ち替わりで来訪する人達との会話劇。

舞台劇の映画化作品だけに脚本のクオリティは申し分ないことに加え、登場人物の演技も素晴らしく、それだけで鑑賞した甲斐があることは言うまでもないように感じます。

ファットスーツと特殊メイクで体重600ポンド(約270kg)のチャーリーを巧妙に体現したブレンダン・フレイザーが、ほぼ全編にわたってソファに座りながらも、その表情と表現、重苦しい身体の動きで見事にオスカー受賞を果たしたのは納得としか言いようがありません。

そして彼のバックボーンを知る人であれば誰しもが、チャーリーにフレイザーを重ねることでよりその演技に引き込まれることは間違い無いでしょう。

また、本作で監督を務めたダーレン・アロノフスキーが『レスラー』(2008)でミッキー・ロークを復活させたことも記憶に新しい映画ファンとしては、手法として新鮮ではないにしても感慨深いものがありますよね〜

ずっと室内の描写が続き、雨も後押しする閉塞感に溢れる本作は、一言で言うなら”陰鬱”であり、なかなかに色濃いキャラクターたちも多いにもかかわらず、ストーリーの進行に従って徐々に共感できる部分もあったりと没入感は増していきます。 そして、最高潮で終わりを迎える潔さ。 アッパレです。

もちろん大きく感情移入できる人生は送ってきてはいないですが、過去の過ちと葛藤に悩みながらも文面の美しいエッセイを教えつつ何度も劇中で言う”Honestly”を大事に生きるチャーリーや、看護士という職業柄か友情からか献身に介助するリズ。 世の中の不条理に直面している娘や、宣教師を自称する何かを成し遂げたい青年など、それぞれのキャラクターが活きていて好きにならずも嫌いになることはできないように感じました。

生きるのって大変なんだな…

正直なところ、勝手に巨体を”クジラ”に見立てたひどいタイトルかと思っていましたが、有名小説”白鯨”を引用するエッセイから始まり、本編にも過去や他人の引用することでクジラとなかなか戦わない白鯨感があります。 もうだいぶ昔に読んだのでうろ覚えですがw

派手な演出や明るい描写はもちろんないですが、脚本に演出、演技、配役と抜群で、映画好きには間違いなくオススメしたい作品です。

”Honestly” 刺さりますね〜

エンドロールが波の音とクジラの声ってのはホントにシュールで、センスが凄いなぁ〜と思いました。

評価

脚本5.0

配役5.0

演出4.5

音楽4.5

映像4.0

 IMDb 7.7 / 10

ROTTEN TOMATOS Tomatometer 64% Audience 91%

metacritic METASCORE 60 USER SCORE 7.4

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