KADOKAWAから2023年6月2日に劇場公開された「渇水」の感想記事です。
河林満の同名小説を原作に実写映像化した作品です。
オススメ度
あらすじ&予告編
⽇照り続きの夏、市の⽔道局に勤める岩切俊作は、来る⽇も来る⽇も⽔道料⾦が滞納する家庭を訪ね、⽔道を停めて回っていた。
県内全域で給⽔制限が発令される中、岩切は⼆⼈きりで家に取り残された幼い姉妹と出会う。
蒸発した⽗、帰らなくなった⺟親。 困窮家庭にとって最後のライフラインである“⽔”を停めるのか否か。 葛藤を抱えながらも岩切は規則に従い停⽔を執り⾏うが…
作品情報
製作国:日本(2023年)
配給:KADOKAWA
監督:高橋正弥
本編:100分
出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山崎七海、柚穂、宮藤官九郎、宮世琉弥、吉澤健、池田成志、篠原篤、柴田理恵、森下能幸、田中要次、大鶴義丹、尾野真千子ほか
レビュー
小説も未読であるとともに原作者も存知上げない中で、結末は変えているとのことを抜きにしても30年以上前の作品に、しかもバブル世代の作者がこの題材を取り上げるということにやや違和感を覚えるも、貧困層とそれに寄り添う心情は今の時代には凄まじくマッチしているように感じます。
監督として名高い白石和彌がどのように企画プロデュースとして関わったかはわかりませんが、良作には必ずついて回るネームにすら感じますね笑
ストレス社会を具現化したような地方水道局職員を描く本作は、文字通り渇水のような心の渇きを抱きながら人生を送る生田斗真演じる岩切の葛藤を映し出しています。
社会問題を提起しながらもそこから脱却するのではなくありのままの姿を描くストーリー展開は、決して気持ちのいいものではないが、演者の素晴らしさに引っ張られるとともに、リアリティ感が抜群なことから感情移入はしやすいように感じます。
生田斗真、磯村勇斗が素晴らしい俳優であるのは間違いないですし、磯村に至っては「PLAN 75」(2022)で演じた市職員も、高齢者に“死を選ぶ制度”を推奨する自分の仕事に疑問を感じるという本作と似た役所であったことからも既視感もあります。
抜群だったのはネグレクトを受ける姉妹の姉を演じた山﨑七海。
水不足に伴って営業していない市営プールで、シンクロごっこをする冒頭シーンに心掴まれると共に、おそらく経験したことのないであろう親や水のない生活の苦しみを体現しています。 将来的に大女優になるのではないかとも思わせる好演ぶりで、作品のクオリティが上がったことは間違い無いでしょう。
心の渇きと社会に対するやるせなさのピークに起こした小さなテロは、社会に波風ひとつ立たないしょぼいものであったとしても、目を逸らさなかった大人の抵抗として子供たちの胸には刻まれた筈であり、そういった行動を取ってくれる大人がいるということが勇気になるかもしれない。
切実な社会問題を描く作品は昨今多いが、それらの作品が一貫して言っているのは”何も変わらない”ということ。
それでも描かれることで社会に問題提起する一つの形として成立しつつあるのが映画というのは非常に面白い。 マイノリティが理解されにくいこの国での訴え方としては妥当なところか。
果たして人の心を潤すのは愛なのか良心なのか…
評価
脚本
配役
演出
音楽
映像
IMDb 6.5 / 10
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