2024年3月11日に開催された「第96回アカデミー賞授賞式」の受賞、またはノミネートした作品の感想記事のまとめです。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が最多7部門を制する主要8部門のうち6部門を獲得する偉業で、オスカーの歴史を塗り替えたのが1年前とはあっという間ですね〜
様々な受賞・ノミネート作品の中から選り好みで紹介させていただきます。
オッペンハイマー
「ダークナイト」「インセプション」「TENET テネット」など話題の大作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史スペクタクル。
2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を下敷きに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描いた作品です。
第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞(クリストファー・ノーラン)、主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニーJr.)、作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)、編集賞( ジェニファー・レイム)、撮影賞(ホイテ・ヴァン・ホイテマ)を受賞し、それらを含む同年度最多の計13部門にノミネートされています。
「インセプション」(2010)「インターステラー」(2014)「TENET テネット」(2020)という挑戦的な名作を生み出してきた奇才”クリストファー・ノーラン”による脚本・監督・共同製作で、製作費約1億ドルを投じた3時間の超大作。
原爆うんぬんのきらいはあるかもしれないが、観るべき作品でしょう。
哀れなるものたち
「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再びタッグを組み、スコットランドの作家アラスター・グレイの同名ゴシック小説を映画化作品です。
第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最高賞の金獅子賞を受賞し、第96回アカデミー賞で主演女優賞(エマ・ストーン)、衣装デザイン賞(ホリー・ワディントン)、美術賞(プロダクション・デザイン: ジェームズ・プライス、ショーナ・ヒース、セット・デコレーション: ズィッサ・ミハレク)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞(ナディア・ステイシー、マーク・クーリエ、ジョシュ・ウェストン)を受賞し、それらを含む計11部門にノミネートされています。
観た後にこれほど形容し難い作品に出会ったのは初めてかもしれません。
ティム・バートンの世界観にデヴィッド・フィンチャーの「ベンジャミン・バトン」(2008)を足した様な印象を受けました。
長尺と緩やかなテンポも相まって多少の忍耐は必要に感じますが、奇妙でおどろおどろしいのに魅力的でどこか心地良い様なそんな感じにさせてくれます。
落下の解剖学
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞したヒューマンサスペンス。
女性監督による史上3作目のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。
第96回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞しています。
謎解きや推理などのミステリーを連想させる予告やあらすじからは想像できないほどに本作は法廷劇でありヒューマンドラマ、もしくは家庭という名のサスペンスである。
法廷での証言により主人公夫婦の過去が明らかになる過程で、聴衆と観客の目に映る主人公の印象が変遷し、様々な要素によって憶測が憶測を呼び天秤の僅かな揺れが増幅していく。
人の目に映る歪さ、不確かさを暗に露見させる意欲作。
アメリカン・フィクション
コード・ジェファーソンが、パーシバル・エベレットの小説を原作に初メガホンをとった監督デビュー作で、アカデミー賞の前哨戦として重要視されるカナダのトロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を受賞して注目を集め、第96回アカデミー賞では作品賞ほか5部門にノミネートされ、脚色賞を受賞しています。
偽名で書いたステレオタイプな小説がが売れていく様を通して、偽善について風刺的に描いたコメディドラマ作品。
バービー
世界中で愛され続けるアメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングの共演で実写映画化。 さまざまなバービーたちが暮らす完璧な世界「バービーランド」から人間の世界にやってきたひとりのバービーが、世界の真実に直面しながらも大切なことは何かを見つけていく姿を描いた作品です。
世界各国で大ヒットを記録し、全米興行収入は6.3億万ドルを超えて同国歴代11位、世界興収は14.4億円を超えてワーナー・ブラザース映画史上最高のヒット作に。
さらに第96回アカデミー賞では歌曲賞(“WHAT WAS I MADE FOR”ビリー・アイリッシュ)を受賞し、作品賞を含む7部門8ノミネートを獲得しています。
男で日本で平成生まれというだけで全く通ることのない世界観ながらに、いざ鑑賞するとクオリティの高さに舌を巻きます。
ゴジラ-1.0
『ゴジラ』シリーズでは37作目であり、国産の実写作品としては『シン・ゴジラ』(2016)以来7年ぶりとな通算30作目で、ゴジラ生誕70周年記念作品と位置付けられる作品です。
先に発表された第47回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、脚本賞ほか8部門を制し、第96回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞しています。
日本が生んだ特撮怪獣映画の金字塔「ゴジラ」。
28作目「ゴジラ FINAL WARS」(2004)までの着ぐるみから、VFXを駆使した29作目「シン・ゴジラ」(2016)までにおいて”現在”を描いてきましたが、その生誕70周年記念すべき30作目の本作は”過去”を描いているのが大きな特徴ではないでしょうか。
戦後の復興期を迎える日本をリアルに表現した「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005)を手掛けた山崎貴が監督だからこそ描けた作品であるのは言うまでもなく、1作目の「ゴジラ」(1954)をも悠に遡る時代背景で描かれるゴジラは秀逸です。
君たちはどう生きるか
「風立ちぬ」(2013)を最後に長編作品から退くことを表明した日本が誇る巨匠”宮崎駿”が、引退を撤回して挑んだ長編アニメーション。
吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』からタイトルを取っているが直接の原作とはならず、同小説が主人公にとって大きな意味を持つという形で関わる冒険活劇ファンタジー作品。
先に発表された第47回日本アカデミー賞で最優秀アニメーション作品賞を受賞、第96回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞しています。
ジブリ特有とも言える瞳の奥深さと階段の駆け上がりを観て、あぁジブリを観てるなぁ…とそれだけで満足感にも似た感情になって引き込まれます。
ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語
「チャーリーとチョコレート工場」で知られるイギリスの児童文学作家ロアルド・ダールの著作「奇才ヘンリー・シュガーの物語」を原作とした作品です。
第96回アカデミー賞で短編実写映画賞を受賞しています。
金に執着する主人公がひょんなことからある力の存在を知り、しょうもないイカサマを思いついたことで修行に挑むという途方もない物語。
主演のベネディクト・カンバーバッチはじめ、レイフ・ファインズ、ベン・キングズレー、デヴ・パテルと錚々たるメンツが出演し、当然のように一人二役をこなす舞台劇調のストーリー展開は秀逸で、セリフが全体的に早口でテンポ良く飽きさせない感じや、コメディタッチや色彩豊かなセットなどバラエティに富んだ要素が至る所に散りばめられていて観ていて心地良いと思います。
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
ジャーナリストのデビッド・グランがアメリカ先住民連続殺人事件について描いたベストセラーノンフィクション「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を原作に、マーティン・スコセッシ監督がレオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、ジェシー・プレモンス、リリー・グラッドストーンら豪華キャストを迎え、実話を基に描いた西部劇サスペンス作品。
第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、撮影賞など10部門でノミネートされています。
https://crorolab.com/キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン/
マーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプリオの長編映画6度目のタッグとなる本作は、3時間半に僅かに及ばない稀に見る長編に。
しかし、エリック・ロスの脚本とマーティン・スコセッシらしさ溢れる演出、そして終始漂う不気味な彩りが全く飽きさせずに最後まで程よい緊迫感に包み込みその長さを感じさせない。
アメリカ近代史を描いた中でもなかなかにドギツイ内容と、サスペンス調からソーシャルドラマへとその枠を広げる演出が見事と言って良いでしょう。
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素晴らしい作品が並びましたが、邦画が食い込んでいることが嬉しいですね〜
毎年楽しみなアカデミー賞ですが、来年は何が入ることやら。 楽しみに待ちましょうw